オフィウクスの謎―加護を受けたと思ったら存在しない神だった―1章-02

 

 双子の神が去って行ってからどのくらい時間が経っただろうか。まだ頭がガンガンと揺れている。
「くそっ! なんなんだ、お前は!」
 頭を押さえながら、耳に残る声に抗議した。
『蛇使いの神の化身。汝に加護を与える者』
 低い声の返答と共に、スルスルと首もとに冷たい何かが這った。背筋が凍る。
 金色の大きな瞳――俺の目の前には一匹の蛇が、じっと俺を見つめていた。
 驚きにひゅっと喉を鳴らす。
 蛇はちろっと二つに割れた舌を覗かせて瞳孔を細めた。
「お、お前、今までどこにいた……!?」
『汝の体の中だ。我は、汝と一体となった。それが神の加護』
 もう頭には響かなかったが、蛇の言葉にぞわっと肌が粟立つ。
「加護? 一体って、どういうことだ……?」
『我は汝で、汝は我。ということだ。そして、汝はいつでも我の声を聞き、我の力を使うことができる』
 蛇はそういうと、体を丸めた。そして、形が徐々に変わり、一冊の本になる。
『我が与えるもの、知識なり。蛇使いの加護は知識』
「知識……」
『何を知りたいか明確に頭に浮かべよ』
 宙に浮かぶ本が問いかけてきた。
 何が知りたい? そんなのわからないことばかりだ。何が起こってる?
 なんで俺が……。
「何で俺が……選ばれたんだ……?」
『それでは、知識を調べることはできない。感情ではない、明確な言葉。について思い浮かべよ』
 どういうことだよ。こっちは頭がこんがらがって仕方ないっていうのに…。
「じゃあ、ここまで連れてきたのはお前か?」
『可。しかし、可か否とできる質問では、真の知識は得られぬ。まだ、知識の使い方がわかっていぬようだな』
 偉そうな声を出す本はぱらりと勝手にめくれた。
『まずは知りたい単語について述べよ』
 目次と書かれたページ。
 俺が気になっている単語がズラリと並んでいた。
 牡羊の星、牡牛の星、双子の星……蛇使いの星。
 神、神の加護……。
 神話生物、羊、牛…蛇。
 どれも聞きたい。
「蛇使いの星……」
『12の星との繋がりはすべて絶たれ、今は消滅しているといわれる星』
「消滅しているってーのに、神は生きてるんだな」
『それでは知識は得られぬ』
「じゃあ、どうすればいいんだよっ!」
『誰の何を知りたいか。に要約せよ』
誰の……?
「蛇使いの神の生死……」
『蛇使いの神は生きている』
 返答はそれだけだった。そうではない、もっと詳しく知りたい。
 なぜ、知っているなら、教えてくれてもいいじゃないか。
『理不尽。そう思っているな?』
「あ、あたりまえだろ! 知ってることを洗いざらい教えろよ!」
『ふむ。かつて世界は、12の星で成り立っていた。……星には、ひとり守り神がついており、人は12人のうち、いずれかの神の加護を受けた。加護を受ける人間は、神の化身を身にまとう。神の化身は加護する人間に味方をし、それぞれ特殊な魔法を使うことができた。そんな平和な時代では、神々も神の加護を受ける人々も、ワープゾーンという魔法陣で星々を行き来し、豊かな生活を送っていた。ある時、新しい星の蛇遣いの星が出来、星が13個になった――』
「ちょ、ちょっとまて!」
 そんなにいろいろと言われてもこんがらがるし、世界の成り立ちから話始められても困る。
『そうだ、知識とはいきなりすべてを聞かされても理解することはできぬ。だからこそ、少しずつ知らなければならぬのだ』
「だけど、何から聞けばいいのか……!」
『焦るな。そのうち疑問に思っただけで、答えが出るようになる』
「どういうことだ?」
『加護が体に慣れ、溶け込むほどに我は汝の思考を読み取ることが出来、汝に見合った答えを用意することが出来る』
 ぞわっとした。溶け込むほどに……? 成り代わろうとでも言うのか?
「お前は、俺を誰もいない星……蛇使いの星に連れて行くのか……?」
 そして、俺が俺でなくなるのか……?
『否とも可とも答えかねる』
 答えは曖昧だった。
 やはり、俺はこいつに連れていかれるのだろう。俺ではなくなった俺を。
『もう、聞くことはないか?』
 本が蛇の形へと戻っていく。
「……どうすれば、牡羊の星、もとの世界に戻れる……?」
 頭に再びヘレの悲しそうな顔が浮かんだ。
『蛇使いの星に、すべての答えはある』
 蛇は淡々と応えた。
 それ以外に方法はないと言うように。
 そうか、連れていかれるんじゃない、俺が、俺の足で蛇使いの星に行かなきゃいけないんだ。
「わかった。蛇使いの星への行き方を教えてくれ」
『12の惑星の内、半分以上の星の加護を獲よ』
 星の加護は神に認められなければ与えられない。ずいぶんと長い道のりだ。決意したばかりの心が折れそうだ。
 だけど、生きるためにはそれしかない。戻れないのはわかってる。オフィクスの加護を受けた俺は、異端。このままじゃ、戻っても怖がられ最悪殺される。
 牡羊の神が放った矢がフラッシュバックした。
 怖い……。
 だからこそ、もう立ち止まれない。
「まずは双子の神の加護からってことか……」

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